最近見てきた写真展のお話です。井津健朗さん、星野道夫さん、今道子さん、鈴木渉さん、池谷友秀さん。全く異なるジャンルや切り口の展示ばかりなのですがビジュアルのインパクトだけでなくその内側に流れる物語や思いについて考えることのできる展示ばかりでした。

さて先日の降雪日に訪問させてもらった井津健朗さんの写真展アジアの聖地。
まだお正月の気配も残る時期に何ですが多分本年で一番良かった展示になりそうな予感です。
空間を気配ごと保存する8×10を駆使して聖地を巡った旅の集大成となる展示。
正直アジアの聖地は旅する人にとってそこまで秘境というわけでもなく、実際カイラス以外は訪れたことのある場所でした、しかしこれは写真の写真や印刷物を見るのでは決して伝わらない、展示されているオリジナルプリントをぜひ見てみてほしいと思うのです。

そもそも聖地とは何か、あるいは聖なるとは何なのか。
見えないものでも何か感じる瞬間はこんな僕にでもあったりします。
それは多分どこの国の何時代の遺跡とかそういうことではなく、自分も含めたツリーストにまみれた観光資源としてのそれではなく、誰もいない荒野で風だけが吹いている時や朽ちた仏像の隙間から名前の知らない草の芽が懸命に蔦を伸ばす様子。太陽を背にしたヒマラヤの峰、すれ違う人のはにかんだ笑顔。
そういった偶然が集まる場所の気配。
また館内でいただける図録、そして映像、どちらもとても見応えがあって久しく忘れていた旅の中の高揚を感じることができました。
今自分がいる場所が世界の中心ならば、そこは世界の果てであるだろう全く知らない理の中で暮らす人々。同時にそれは彼らを中心に考えると今自分が暮らす横浜や東京は世界の果てになると考えるとなんだか体と心が軽くなる気がします。

作品の中で特に印象深くなんども見つめてしまったのが1999年のチベットポタラ宮。かつてダライ・ラマの宮殿だった場所。
奇しくも自分が訪れたのと同じ年。365分のいくつかの割合で僕が鼻垂れのチベット人の子供と路上で遊んでいる時にこの写真が撮られていたのかと思うと22年の年月を遡って色々なことがこみ上げてきました。
写真って本当に凄い。

会場ではお世話になっている風の旅人の佐伯さんや去年凄い水俣の展示を見せてくれた桑原さんもいらっしゃって、井津さん交えて凄い空間に。
皆さん聖なるものをは何か探求したらっしゃる方ばかり。
雪の中しばらく余韻に浸り、自分には何ができるだろうかと考える。
最後に映像の中で紹介されている井津さんがカンボジアで経営されてらっしゃる病院について。いかに多くのことを得るかが何よりも大きな命題として提示されている社会の中にあって、財だけでなく愛をいかに還元されるかについて真剣に考えてらっしゃる井津さん。
いくら多くのものを得てもそれはあの世には持っていけないもの。与えたものだけが残るということについても深く考えさせられました。

そして一昨日のお休みは2020年に展示でお世話になったアースプラザさんへ。
もう何度も見てきた星野道夫さんの展示ですが改めて素晴らしい。
一面の氷原と一頭さまようように近寄ってくる白熊の写真。これが地球か。
今回の展示ではキャプションとはまた違う、星野道夫の言葉が壁に散りばめられていたのですがこれがまた味わい深い。

動物の写真ももちろん素晴らしいのですがやはり興味があるのがハイダグワイ。南東アラスカに連なる島々とそこに残された伝説とトーテムポール。必ず訪問しワタリガラスとハクトウワシのクランの物語を全身で感じてみたいと思いました。
お土産にコヨーテを購入。いつか訪れる日のためにしっかり予習していきたいと思います。こちらの本はお店に置かせてもらいます。ぜひご覧になってください。

アースプラザさんでは初めての常設展も見学。個人的には初めて叩くスティールパンに感激。良き訪問でした。

本郷台経由で鎌倉に。神奈川県立近代美術館 鎌倉別館が舞台。よく前通るのですが初めての入館でございます。
こちらで拝見したのは今道子さんの写真展フィリア。
以前に足利の美術館で拝見してマジかよ。。っておもわず口走ってしまったのを覚えています。それほどに強烈なコラージュのビジュアル。

ざっくり言ってしまうとサンマの頭とかイカとかエビとかそういった類のものを使ったコラージュと言いますか。。
割と人様よりエロやグロは嫌いじゃない、むしろ好きな方かと思っていたのですが井の中の蛙でした。もし身の回りの人が同じ作品を制作しているところに出くわしたら止めるように言ってしまうかもしれません。
しかしこのキモ可愛いくすらないオブジェの写真を見続けていると少しだけ心の内側からちょっとだけなら触ってみたくない?と声が聞こえるような気がしました。少しでも興味を示したが最後ズルズルと引きずり込まれてしまうような艶めかしい危険な魅力。
てかチケット買って見にきている時点で完全にアレなのですが。
美しいってなんだろう。色々考えさせられました。

こちらは少し前、もう終わってしまった展示ではありますが素晴らしい展示だったので。
ニコンサロンで開催中の土門拳文化賞展。
今年受賞された鈴木渉さんの展示がしみじみかっこいい。
とかく渋いと言われるこの賞ですが、それよりもじっくり腰を据えて丁寧に作品を撮ってらっしゃる方が多い印象です。鈴木さんも訪問しながら福島を撮ってらっしゃるそうですがその回数実に100回超え!
技術や感性では補いきれない情熱と時間の積み重ねの凄みを教えてもらった気がします。
一昨年奨励賞をいただいた土門拳文化賞。酒田と関われたことは自分にとっても宝物。またいつか挑戦してみたいなとも少し思いました。

最後に以前より超ファンの池谷友秀さんの展示、記憶 〜remembrance〜。
海と呼吸の二つのシリーズが呼応する展示。壮絶。
根源的な恐怖と同時に生きているという行為そのもの再認識する作品に鳥肌。
吐く息が気泡となり可視化されることは、普段意識しない、いつか必ず自分にも訪れる死の瞬間をも無意識に連想しました。そしてその写真がとてつもなく艶めかしく美しい。
即興のパフォーマンス映像もえげつないほどの迫力。冷たい熱帯魚のようなお姉さんが、呼吸のため、必死に水の中に戻りたがっているように感じましたが、はたしてはたして。
無味無臭の乾いた日常の中、退廃的で耽美な水の中に引きずり込まれるような体験でした。

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