先日お店で写真の展示をしてくださったシンさんから、店長好きそうな展示が取り壊しの決まった銀座のビルで行われていますよと一報いただきました。
廃ビルでアート、というとちょうど少し前に四谷で行われていたBCTION 。
あの退廃した宴を彷彿とさせるデカダン祭再び!かと思いきや、銀座と言う場所柄なのかもう少し洗練されたコンセプチュアルな空気感が漂っております。
MIRROR展、時代を写す鏡。
築84年、取り壊しが決まった名古屋商工会館という空間はどういった時代を映し出すのか。
おそるおそる鏡の世界に足を踏み込むのでありました。
内部は毒のあるユーモアに満ちていたBCTIONとは一線を画す、影のある雰囲気。コンクリートと蛍光灯が織り成す、温もりを感じさせない無機質な空気が緊張感を高めます。
基本的に一室、一作品。そしていきなり大ファンのさわひらきさんの作品!
氏が体験した幽体離脱がテーマと言うEnvelopeという映像作品。以前にオペラシティでも拝見させてもらったこの作品ですが、いいものは何度見てもいい!
今回もまた完全に鏡の向こう側に連れていかれてしまいました。
帰り道を忘れてしまいそうで危険です。万華鏡、あるいは白昼夢のようなビジュアル。
しかしさわさんの映像作品は音がまた素晴らしいのです。共鳴する不協和音というか、聴覚を突き抜け前頭葉に直結するような波紋。時に逃げ出したくなるほどに官能的で。
ネガティブ、と言えば言い過ぎなのですが薄暗い色合いの作品が多い中ほっこりとした一室。
こちらも大ファンの藤森照信さんの世界が広がる部屋。
壁面に展示されるのは設計図でしょうか。ハンギングファイヤープレイス、素敵です。
こうのとりが煙突に住む家。煙突に幸福直送。
フジモリスタとしてはまた訪れなければいけない聖地が一つ増えた事になります。
そして上階、私は一列の猿群に遭遇しました。
こちらもまたどこか合わせ鏡の様な。
鏡に映るチンパンジー。シニカルな視線と目があって困る。
はぐれメタルとも遭遇。いい経験です。
とってもメタリカ。そしてここもまた鏡面。
正直なぜこの廃ビルにタンカが、釈迦牟尼が現れたのかさっぱりわかりませんでしたがとにかく圧倒的な存在感。
曼荼羅を見つめる。星空を眺めるに等しい行為なのか。
つむじ風かサイキックか。えらいこっちゃ。
最上階も近いフロアに突如現れた書店。それもとびっきりもじゃもじゃです。
これがまた不思議と落ち着くのです。本を物色している内に己のモジャ毛を触媒にいつの間にか一体化されてしまいそうなほどよい緊張感。置いてある本も興味深いものばかりです。
やはり本は紙!という古いタイプの自分にとって、こういった書店そのものが進化、あるいは変化していく姿を見ると凄く嬉しい気持ちが沸き上ります。データベースやアーカイブ以上の、その場所自体が発想やひらめきを与えてくれるような書と建築が交わる空間。
紙の匂いに誘われて、いつぞやのヴァスコンセロス図書館やアスプルンドのヘルシンキ市立図書館のような本を巡る旅、また出かけたいものです。
ハムレットからの引用からMIRRORと銘打つ展示のコンセプトは正直よくわからない所も多かったですが、在りし日の姿を連想させながら現代アートとの強烈なギャップを叩きつけられる感覚はやはり痛快で面白いです。
それは古民家だったり工場だったり、あるいは今回の様な廃ビルだったり。
THE MIRRORの会場の名古屋商工会館は取り壊しが決まってしまっていますが、古いものをただ壊すのではなく修理、再生、生まれ変わり循環する文化が根付いていくきっかけの一例としても興味深いものなのかもしれないと思うのでありました。